浜
浜さん (7c8ltcsp)2019/12/1 18:01 (No.45601)削除駄文注意‼︎
2XXX年7月13日、私はとある男性死刑囚への取材を行った。取材を受けるのはヘンリー=マクレガー。1年前の今日発生した強盗殺人事件、通称《ローグランド銀行強盗事件》の犯人グループ唯一の生き残りであり、銃撃戦の後警察官5名を含む15人を殺傷した男だ。
死刑囚用に設置された面会室でマクレガーと対面した。明日死刑が執行されるにも関わらず、彼はまるで動じていなかった。寧ろ私の訪問を喜び、子供の様にはしゃいでいた。それは死刑執行前の死刑囚に有りがちの溢れんばかりの感情表現ではなく、純粋に話し相手が現れた事への喜びだった。
「マクレガーさん。私は…」
『ヘンリーでいいぜ。堅苦しいのは無しでいこうや』
「ならヘンリー。初めまして。私はエドワード=リンデル、セントベイジャーナルの記者をやっている。今日は君が起こした事件について、君自身の口から色々聞きたいと思うんだが…良いかね?」
『あぁ、構わねぇよ。1年前とはいえ、あんときゃ急いでたから覚えてねぇトコがあるかも知れねぇけど勘弁な』
「ありがとう。では早速質問をしていこう」
___こうして私は幾つかの質問を彼に投げかけ、彼はどんな質問にも答えてくれた。刑務所内での生活やもし犯行成功した後はどうするつもりだったのか、仲間達とはどうやって知り合ったのか…彼は思い描いていた凶悪犯というよりは話好きの好青年に見えた。
「___そういえば、君の事を少し調べたんだが…随分と暗い人生だったようだね」
彼は12歳の時に初めて盗みを働き、それがキッカケで両親からのネグレクトが発覚し、児童養護施設に入っていたがそこから何度も逃げ出し、終いには施設から追い出されていた。
「世間では君が受けたネグレクトが原因となって今回の事件に発展したという見方があるんだが…本当のところどうなんだ?」
その時、饒舌だった彼の口が止まり、項垂れ、小刻みに肩を震わせ始めた。私は質問を繰り返した。
「どうなんだい?君は裁判の時、この話を弁護士にしたのか?」
例えこの話があった所で10人が死傷した事件の犯人だ、情状酌量の余地は無いだろう。しかし個人的に彼のネグレクトと犯罪事件に因果関係があるのか否か、彼の口から直接聞き出したかったのだ。
『…だ』
「今、なんと言ったんだ?」
『…最高傑作だって言ったんだよ』
…彼は笑っていた。腹を抱え、可笑しくて堪らないといった表情で。眼には笑い過ぎたせいか涙まで浮かんでいた。
『ブンヤの旦那…アンタ最高だわ。いやぁ…死ぬ前に面白い奴と会えた…』
まだ笑い足りないのか、身体をくの字に曲げて笑い声を溢す彼に私は圧倒されてしまった。
「そ、それで…どうなんだ?」
『関係無い。確かに親父もお袋も屑だったし、俺は人間扱いされてないどころか邪魔っけな物扱いだった。けどな、去年の事件とは全く関係ねぇ。俺はな…あの瞬間を楽しんでた。いや、どの瞬間でも精一杯楽しむ事を第一に考えて生きてきた。死刑が決まってからは特にな』
「楽しんでいた?」
彼は反社会性パーソナリティ障害、所謂サイコパスなのだろうか。ただ、彼の精神診断結果にそのような記述はされていなかった。
『そう、楽しかった。誰かを殺す事がじゃあないぜ?寧ろ逆だ。警官共の弾が耳元を掠めていく度に心臓が締め付けられてよ、何度も呼吸が出来なくなりそうになった。死ぬ事への恐怖ってヤツさ。いつどっから鉛玉が飛んできてくたばったっておかしくねぇ、隣の仲間が一人、また一人を死ぬ度に次は俺の番かと覚悟を決める。だけどな、だからこそ『生きてる』って感じた』
「…なら、被害者を撃った時に何か思わなかったか?」
『言ったろ?そん時は金抱えて逃げなきゃならなかったから彼是深くは考えてなかった。だが、ムショにブチ込まれてからは…まぁ警官は兎も角、あのオッさんには悪かったと思ってる』
彼の言う『あのオッさん』とは、恐らくこの事件における民間人死亡者ロバート=ノーリッジ氏の事だろう。ノーリッジ氏は銃撃戦の流れ弾で亡くなっておりこれが犯人側からの物だったのか警察側からの物だったのか、未だ分かってはいないものの、彼はノーリッジ氏の死に対し、哀悼と後悔の意を表していた。
「…罪の意識は、あるようだね」
『おいおい、流石の俺でも無関係の人間殺しといて罪悪感持たずにゃいられねぇよ。…ここだけの話、別に金が欲しかった訳じゃねぇ。他のブンヤや弁護士にゃ金が欲しくてやったと言ってるし、さっきアンタにもそう言ったが…本当はそうじゃねぇ。銀行を襲ったのはそれが一番手っ取り早く生き死にの鉄火場になると踏んだからだ。俺以外はそうじゃなかったみてぇだがな』
私は手帳にペンを走らせながら彼の特異性を深く掘り下げてみることにした
「君は破滅衝動か自殺願望でもあるのか?」
『自殺したいとは思った事ねぇな。破滅衝動とやらは…よく分かんねぇ。そこら辺りの小難しい事は精神科医が教えてくれるだろ。俺はただ生きるか死ぬかのギリギリを味わって、いや、棺桶に片足突っ込んでもう片方を出し入れするような生き方が最高にクールで満足出来る生き方だと思ってんのさ』
「それは何故だ?君は自殺願望も無いのに死ぬ事を…楽しんでいるように見える」
『ブンヤの旦那、アンタどんな時に『生きてる』って思える?』
「難しい質問だ。そうだな…自分が作った記事が社会に何か影響を与えられた時…かな。自分が世論を作る一翼を担えるというのはジャーナリストとして誉れある事だ」
『成程ねぇ…俺にはそういう手合いの感覚は分からねぇ。だが、唯一死にそうだからこそ生きてる感覚を得る事は出来んだよ。なんつったら良いのか…あー、そのー…』
「…自殺しようとして、不意にその決心が揺らぐのに近い気持ち…という事かい?」
『多分な。死ぬってのは一番大きく感情が揺さぶられるモンだろ?その感情の振れ幅がデカい分、生きてるって事が分かるんだと思う。死んだら何も感じねぇだろうしな』
死んだ事が無いから分かんねぇけど、彼はそう付け加えた。___これは彼が先天的に獲得したものなのか、それともネグレクトや児童養護施設で培われてしまったものなのか、私には分からない。面会時間が終わるギリギリで、私は最後の質問をした
「最後に一つ。ありきたりな質問をしてもいいかな?君は明日死刑が執行される身な訳だが、明日自分が死ぬという状況を前にして、事件の被害者に何か思う事はあったりするのか?」
『…無い。と言ったら嘘になるが…アンタ、もし俺が何か言ったら記事にするだろ?じゃあ何も言わねぇ。俺は悪人だ。人の金を奪おうとしただけじゃなく、6人殺し、9人に大怪我させた悪人として処刑される。世間がそいつを望んでいる事位、バカな俺でも分かる。それによ、ラストミールだっけか。最後の晩餐ってのは俺の自由に出来んだぜ?俺さ、西部劇(ウェスタン)見ながら飯食ってみたかったんだよなぁ』
こうして彼への取材は終わった。刑務官に連れ添われて面会室から去っていく彼からも結局悲哀や悲壮感の類を感じる事は出来なかった____そもそも彼は恐怖していたのだろうか?死を前に生の実感を得るという彼の言葉をどこまで信用していいのか、私には判断がつきかねた。ただ、自身の死を悲観せず最後まで笑っていた彼に私は無法者(アウトロー)の幻影を見た事を此処に記しておく