浜
浜さん (7ibbifgw)2020/5/2 19:34 (No.73726)削除【想う世界と居る世界】
___なぁ、西部劇(ウエスタン)って見た事あるか?馬、銃、ロマンス…良いトコを数え上げたらキリが無い。アメリカンドリームってヤツを呼び起こしてくれる痛快さが堪らないとか色々批評をするヤツもいるが、俺はどれだけドンパチして命の張り合いしたって一切お咎め無しってトコに惚れた。あれこそ俺の理想とする世界だ。っつっても、ちゃんと見た事ねぇんだけどさ___
電脳世界でも犯罪は起きる。人生の半分をそこで過ごすんだから当然、反りの合うヤツ合わないヤツも出てくるし、全てがデータのこの世界で一山当てようと阿漕な手を使うヤツもいる。今じゃ「デザイア」なんて連中が彼方此方で厄介事を起こしてくれやがるせいでそんな奴は随分と減った。多分デザイアと手を組んだか、手を組もうとして消されたんだろうが、俺からすればどっちだって良い。単にコイツを振るう機会が減ったのが癪に障るだけだ。だが、今日は運の良い日だったらしい…
「テメェ。此処が俺達のシマだって分かってんのか?」
「ガンマンみてぇなナリしやがって…」
『…おいおい。別にどんなカッコしようとアンタらにいちゃもん付けられる理由はねぇと思うんだが?』
分かりやすくチンピラな難癖の付け方をしてくる6人組。だが、一つ計算違いだったのは其奴らの身体には違法データによる過剰改造が施されていた事だ。そして向こうは当然の如く、それを自慢する。
「俺の腕をみて後悔したか?だが残念だったな。コイツは重機並の力を出せんだ…よぉっ!!」
そう言いながら、小太り男がこちらにフックを放ってくる。咄嗟に避け、愛銃「ライトニング・パントラインスペシャル」を抜いて発砲、足目掛けて数発撃ち込む。だが、放った弾丸は冷たい金属音を上げて消失する__弾かれたのだ
「オツムの足りねぇ野郎だ。俺は四肢全体うごォッ!!」
『解説ご苦労さん。胴体がガラ空きだっての…』
腹と胸に一発ずつ。今度は弾かれる事無く吸い込まれ、小太りの男は着弾部から赤い閃光を散らして倒れる。今の軽い小競り合いが連中全員の怒りを最高潮に上げたらしく…後はお決まりの銃撃戦になった。相手は違法改造でガチガチに固めた連中ばかり。中には鎧のような物を着込んでいる奴すらいた
「死ね!死ね!死ねぇぇ!!」
現代アクション映画ばりに撃ち出される弾薬。建物の蔭に隠れた横を通過していく弾の通過音と射撃音のけたたましさ、そして罵詈雑言の数々…状況はあの事件の時にソックリだった。違っているのは【こっちが正義】って事だ。左のホルスターに納めていた銃、「サンダラー」を抜く。二丁拳銃(アキンボ)なんて現実でなら使いづらくて堪らないだろうが、ここは電脳世界。演算能力に余裕があればどんな事でも出来る。パントラインの弾種を.308ウィンチェスターにセットし、チンピラ共の銃撃が止んだのを見計らって物陰から飛び出す。向こうも飛び出たこちらに気付き再び乱射を始める。5対1。数の差で言ったら明らかにこちらの不利だが、それを腕で補ってこそ「プロ」だ。まずは広めの的を始末する。狙うは腕の付け根。.308ウィンチェスターでなら、金属と肉の境目であっても十分に撃ち抜ける。照準は自分の腕と『アイツ』に頼る事にする。内部カートリッジ2つを消費して弾丸が放たれ、喰らった相手は血しぶきと共に汚らしい悲鳴を上げる。ソイツ目掛けてサンダラーが火を噴けば相手は物言わぬ肉塊と成り果てる・・・実にスマートだ。向こうは身体ばかり改造して制御データを入れてない、視覚と数による攻撃。対して此方は数は二丁だが、何十回とシュミレートを繰り返して磨いた腕と射撃制御システムによる補助、加えて『アイツ』・・・「ビリー・ザ・キッド」の力もある。【メサイア】と呼ばれる組織に属している者は全員、何かしらの偉人由来の力を持ってる。見ただけで物体を構成する元素の量が分かる奴や音1つで相手の心を落ち着かせる奴。色々居るが中でも俺のはこういう荒事向けだ。銃口を向ける速度、引き金を引く瞬間の僅かなブレ、視覚と射撃制御システムの間に生じる僅かな誤差・・・そういった要素を劇的に減らして、狙った相手を仕留める。これが俺の力だ。無論、こちらも無傷とはいかない。どれだけ技量があっても面制圧されれば流石に被弾は免れない。頬を、肩を、目を、弾丸が掠めていき、数発は肉を抉るように抜け、一瞬の冷たさの後に熱を感じる__このギリギリの命のやり取りを、俺は楽しんでいた。必死に死に抗い、藻掻いているこの瞬間が、一番「生きている」と実感できた。自ら死神へ近づいていくこのスリルが、堪らなく好きだった。
「もっとちゃんと狙いやがれ!・・・!」
下手な鉄砲式で撃ちまくるチンピラ共に檄を飛ばしたその瞬間。腹部にヒヤリとした感触が触れたかと思えば、コンマ数秒遅れて火箸を腹に突っ込まれたような感覚と熱が襲う。腹を撃たれた・・・咄嗟に自分の状況を理解し、再び死への恐怖が押し寄せる。だが、立ち止まれない。止まれば死ぬ。最早頭では考えない。条件反射のように相手を見定め、引き金を引く。断続する射撃音の5重奏に対抗する独奏という歪な銃の演奏会は5分間も続いた・・・結果は敵勢力死者1負傷者5。こっちは死んではいないが、腹部に一発、擦過傷が・・・いくつあるか分からない位大量
「・・・ちょっとはしゃぎすぎたな・・・」
だが動けないような重傷は殆どない。取りあえず腹部を簡易修復システムをインストールして応急処置を施す。とはいえ簡易修復の為、後でちゃんとした医療措置を受けることにする。勿論向かうのは医務室でなく、事務部のアイツ__ラファエルの元だ。彼女には毎度世話になっているし、つい最近煙草とライターを貰った。本当なら何かしら礼をしたいところだが、隊長命令以外で事務部に上がり込む正当な理由が無い。理由が無くとも行くが。
「・・・っと、いけねぇいけねぇ・・・テメェら、生きてるか?」
そんな物思いに耽っている場合では無かった。チンピラ共からいくつか聞きたい事があった。即死するような場所には当てていないつもりだったが、もしかしたら何名かくたばっているかもしれない。最悪1人でも生きていれば良いだろうとチンピラ達に声を掛ける
「・・・クソッ!腕が・・・」
「見えねぇ・・・お前ら!何処だ!?」
「・・・なんだよ、全員しっかり生きてやがる・・・」
どうやら綺麗に改造部位だけ打ち抜いたらしい。あんまり生きていても尋問するのが面倒なだけだが、この場で始末するとまた報告書を書かされるし、トンズラすれば怖い隊長サマの鍔が鳴りかねない。つくづく厄介な職場だ
「おいテメェら。そのボディデータ、何処で手に入れた。素直に吐けば命だけは助けてやる」
「・・・貰ったんだ」
「誰から?」
「・・・」
「ダンマリ決め込んでねぇでさっさと吐け。それとも、メサイア本部で脳ミソ覗かれてぇのか?」「・・・連中だ。デザイアだよ」
「そんなトコだろうたぁ思ったぜ。で?どうやって受け取った?」
「ある時俺のトコに圧縮されたコードが送られてきた。ソイツを解凍したら出てきたんだ」「だが、射撃制御は入ってなかった・・・と。テメェらはな、良いダシにされたんだよ。だが、ラッキーだったな。相手がもしボイドでも仕込んでたら、テメェらは解凍した次の瞬間にゃ物言わぬ死体になってただろうさ」
銃をホルスターに戻し、本部に連絡を入れる
「ハリーだ。違法改造したチンピラ5人を捕縛。早急に応援を寄越してくれ」
連絡さえ入れておけば後は来るまでの数分間、大人しく待つのみ。手持ち無沙汰なのと傷の痛みを少しでも紛らわせる為、ポケットから煙草を取り出す。一本取ればラファエルから貰ったライターで火を付け、肺の奥まで深く吸い込み、煙を肺に染み込ませ吐き出す
「あー。生きてる・・・」
そもそも死刑囚だった俺だが、この世界ではただの善良な一般市民。首輪付きではあるが、自由にやらせてもらってるだけマシだろう。それに、誰かから贈り物を貰うなんて経験も出来た。生まれた時から邪魔者扱いだった身からすればこんなに嬉しい事は無かった。だからライターを後生大事に持ち歩いているし、煙草の方は未だに封すら切らずに家に置いてある。我ながら女々しい事をしている気もするが、それ程気持ちが動いたのだから仕方ない。1人物思いに耽っていれば、サイレンの音が聞こえてくる。そんなトコまで現実みたいにするのも考え物だと思うが、上はそうしたいらしい。中から下っ端らしき部隊員が現れる
「ハリーさん。確保するのはこの5名・・・って、1名亡くなってますが6人だったんですか?」
「うっせぇな。ちゃんと5人居るじゃねぇか。くたばってる1名はアレだ。正当防衛ってヤツだ」
「正当防衛って・・・」
「・・・なら、死体引っ張ってくか?俺は御免だね。やるんならテメェ1人でやれよ・・・先戻ってるから、何かあれば報せろ」
「ちょっ!?ハリーさん!?」
俺の仕事はここまで。あとは向こうが上手く調整してくれる。どうせ帰っても始末書書かされるので先へ事務部に向かう事に決め、血だらけのまま本部への帰路につく。偶々事務部にいた隊長と鉢合わせて説教を受けるのはまた別の話___
___なぁ牧師さん、西部劇(ウェスタン)って見た事あるか?ありゃ良いぜ。昨日晩飯食いながら見たんだがよ、やっぱ最高だった。・・・野蛮?それが良いんじゃねぇか。自分の命を自分に委ねる。そういう世界で、生きてみたかったなぁ・・・っと、悪いな。最期にこんな話して。じゃあ、祈りの言葉。始めてくれ____