こちらは創作成り部屋「電脳偉人戦地ウロボロス」の掲示板になります。
イラストなどの画像の投稿、小説の投稿、その他自由にご利用ください。

掲示板

アイコン設定
投稿者さん使い方

管理者の承認後に掲載されます。掲載の是非は管理者が判断いたします。予めご了承願います。
さん (7ibbifgw)2020/5/2 19:34 (No.73726)削除
【想う世界と居る世界】

___なぁ、西部劇(ウエスタン)って見た事あるか?馬、銃、ロマンス…良いトコを数え上げたらキリが無い。アメリカンドリームってヤツを呼び起こしてくれる痛快さが堪らないとか色々批評をするヤツもいるが、俺はどれだけドンパチして命の張り合いしたって一切お咎め無しってトコに惚れた。あれこそ俺の理想とする世界だ。っつっても、ちゃんと見た事ねぇんだけどさ___
電脳世界でも犯罪は起きる。人生の半分をそこで過ごすんだから当然、反りの合うヤツ合わないヤツも出てくるし、全てがデータのこの世界で一山当てようと阿漕な手を使うヤツもいる。今じゃ「デザイア」なんて連中が彼方此方で厄介事を起こしてくれやがるせいでそんな奴は随分と減った。多分デザイアと手を組んだか、手を組もうとして消されたんだろうが、俺からすればどっちだって良い。単にコイツを振るう機会が減ったのが癪に障るだけだ。だが、今日は運の良い日だったらしい…
「テメェ。此処が俺達のシマだって分かってんのか?」
「ガンマンみてぇなナリしやがって…」
『…おいおい。別にどんなカッコしようとアンタらにいちゃもん付けられる理由はねぇと思うんだが?』
分かりやすくチンピラな難癖の付け方をしてくる6人組。だが、一つ計算違いだったのは其奴らの身体には違法データによる過剰改造が施されていた事だ。そして向こうは当然の如く、それを自慢する。
「俺の腕をみて後悔したか?だが残念だったな。コイツは重機並の力を出せんだ…よぉっ!!」
そう言いながら、小太り男がこちらにフックを放ってくる。咄嗟に避け、愛銃「ライトニング・パントラインスペシャル」を抜いて発砲、足目掛けて数発撃ち込む。だが、放った弾丸は冷たい金属音を上げて消失する__弾かれたのだ
「オツムの足りねぇ野郎だ。俺は四肢全体うごォッ!!」
『解説ご苦労さん。胴体がガラ空きだっての…』
腹と胸に一発ずつ。今度は弾かれる事無く吸い込まれ、小太りの男は着弾部から赤い閃光を散らして倒れる。今の軽い小競り合いが連中全員の怒りを最高潮に上げたらしく…後はお決まりの銃撃戦になった。相手は違法改造でガチガチに固めた連中ばかり。中には鎧のような物を着込んでいる奴すらいた
「死ね!死ね!死ねぇぇ!!」
現代アクション映画ばりに撃ち出される弾薬。建物の蔭に隠れた横を通過していく弾の通過音と射撃音のけたたましさ、そして罵詈雑言の数々…状況はあの事件の時にソックリだった。違っているのは【こっちが正義】って事だ。左のホルスターに納めていた銃、「サンダラー」を抜く。二丁拳銃(アキンボ)なんて現実でなら使いづらくて堪らないだろうが、ここは電脳世界。演算能力に余裕があればどんな事でも出来る。パントラインの弾種を.308ウィンチェスターにセットし、チンピラ共の銃撃が止んだのを見計らって物陰から飛び出す。向こうも飛び出たこちらに気付き再び乱射を始める。5対1。数の差で言ったら明らかにこちらの不利だが、それを腕で補ってこそ「プロ」だ。まずは広めの的を始末する。狙うは腕の付け根。.308ウィンチェスターでなら、金属と肉の境目であっても十分に撃ち抜ける。照準は自分の腕と『アイツ』に頼る事にする。内部カートリッジ2つを消費して弾丸が放たれ、喰らった相手は血しぶきと共に汚らしい悲鳴を上げる。ソイツ目掛けてサンダラーが火を噴けば相手は物言わぬ肉塊と成り果てる・・・実にスマートだ。向こうは身体ばかり改造して制御データを入れてない、視覚と数による攻撃。対して此方は数は二丁だが、何十回とシュミレートを繰り返して磨いた腕と射撃制御システムによる補助、加えて『アイツ』・・・「ビリー・ザ・キッド」の力もある。【メサイア】と呼ばれる組織に属している者は全員、何かしらの偉人由来の力を持ってる。見ただけで物体を構成する元素の量が分かる奴や音1つで相手の心を落ち着かせる奴。色々居るが中でも俺のはこういう荒事向けだ。銃口を向ける速度、引き金を引く瞬間の僅かなブレ、視覚と射撃制御システムの間に生じる僅かな誤差・・・そういった要素を劇的に減らして、狙った相手を仕留める。これが俺の力だ。無論、こちらも無傷とはいかない。どれだけ技量があっても面制圧されれば流石に被弾は免れない。頬を、肩を、目を、弾丸が掠めていき、数発は肉を抉るように抜け、一瞬の冷たさの後に熱を感じる__このギリギリの命のやり取りを、俺は楽しんでいた。必死に死に抗い、藻掻いているこの瞬間が、一番「生きている」と実感できた。自ら死神へ近づいていくこのスリルが、堪らなく好きだった。
「もっとちゃんと狙いやがれ!・・・!」
下手な鉄砲式で撃ちまくるチンピラ共に檄を飛ばしたその瞬間。腹部にヒヤリとした感触が触れたかと思えば、コンマ数秒遅れて火箸を腹に突っ込まれたような感覚と熱が襲う。腹を撃たれた・・・咄嗟に自分の状況を理解し、再び死への恐怖が押し寄せる。だが、立ち止まれない。止まれば死ぬ。最早頭では考えない。条件反射のように相手を見定め、引き金を引く。断続する射撃音の5重奏に対抗する独奏という歪な銃の演奏会は5分間も続いた・・・結果は敵勢力死者1負傷者5。こっちは死んではいないが、腹部に一発、擦過傷が・・・いくつあるか分からない位大量
「・・・ちょっとはしゃぎすぎたな・・・」
だが動けないような重傷は殆どない。取りあえず腹部を簡易修復システムをインストールして応急処置を施す。とはいえ簡易修復の為、後でちゃんとした医療措置を受けることにする。勿論向かうのは医務室でなく、事務部のアイツ__ラファエルの元だ。彼女には毎度世話になっているし、つい最近煙草とライターを貰った。本当なら何かしら礼をしたいところだが、隊長命令以外で事務部に上がり込む正当な理由が無い。理由が無くとも行くが。
「・・・っと、いけねぇいけねぇ・・・テメェら、生きてるか?」
そんな物思いに耽っている場合では無かった。チンピラ共からいくつか聞きたい事があった。即死するような場所には当てていないつもりだったが、もしかしたら何名かくたばっているかもしれない。最悪1人でも生きていれば良いだろうとチンピラ達に声を掛ける
「・・・クソッ!腕が・・・」
「見えねぇ・・・お前ら!何処だ!?」
「・・・なんだよ、全員しっかり生きてやがる・・・」
どうやら綺麗に改造部位だけ打ち抜いたらしい。あんまり生きていても尋問するのが面倒なだけだが、この場で始末するとまた報告書を書かされるし、トンズラすれば怖い隊長サマの鍔が鳴りかねない。つくづく厄介な職場だ
「おいテメェら。そのボディデータ、何処で手に入れた。素直に吐けば命だけは助けてやる」
「・・・貰ったんだ」
「誰から?」
「・・・」
「ダンマリ決め込んでねぇでさっさと吐け。それとも、メサイア本部で脳ミソ覗かれてぇのか?」「・・・連中だ。デザイアだよ」
「そんなトコだろうたぁ思ったぜ。で?どうやって受け取った?」
「ある時俺のトコに圧縮されたコードが送られてきた。ソイツを解凍したら出てきたんだ」「だが、射撃制御は入ってなかった・・・と。テメェらはな、良いダシにされたんだよ。だが、ラッキーだったな。相手がもしボイドでも仕込んでたら、テメェらは解凍した次の瞬間にゃ物言わぬ死体になってただろうさ」
銃をホルスターに戻し、本部に連絡を入れる
「ハリーだ。違法改造したチンピラ5人を捕縛。早急に応援を寄越してくれ」
連絡さえ入れておけば後は来るまでの数分間、大人しく待つのみ。手持ち無沙汰なのと傷の痛みを少しでも紛らわせる為、ポケットから煙草を取り出す。一本取ればラファエルから貰ったライターで火を付け、肺の奥まで深く吸い込み、煙を肺に染み込ませ吐き出す
「あー。生きてる・・・」
そもそも死刑囚だった俺だが、この世界ではただの善良な一般市民。首輪付きではあるが、自由にやらせてもらってるだけマシだろう。それに、誰かから贈り物を貰うなんて経験も出来た。生まれた時から邪魔者扱いだった身からすればこんなに嬉しい事は無かった。だからライターを後生大事に持ち歩いているし、煙草の方は未だに封すら切らずに家に置いてある。我ながら女々しい事をしている気もするが、それ程気持ちが動いたのだから仕方ない。1人物思いに耽っていれば、サイレンの音が聞こえてくる。そんなトコまで現実みたいにするのも考え物だと思うが、上はそうしたいらしい。中から下っ端らしき部隊員が現れる
「ハリーさん。確保するのはこの5名・・・って、1名亡くなってますが6人だったんですか?」
「うっせぇな。ちゃんと5人居るじゃねぇか。くたばってる1名はアレだ。正当防衛ってヤツだ」
「正当防衛って・・・」
「・・・なら、死体引っ張ってくか?俺は御免だね。やるんならテメェ1人でやれよ・・・先戻ってるから、何かあれば報せろ」
「ちょっ!?ハリーさん!?」
俺の仕事はここまで。あとは向こうが上手く調整してくれる。どうせ帰っても始末書書かされるので先へ事務部に向かう事に決め、血だらけのまま本部への帰路につく。偶々事務部にいた隊長と鉢合わせて説教を受けるのはまた別の話___
___なぁ牧師さん、西部劇(ウェスタン)って見た事あるか?ありゃ良いぜ。昨日晩飯食いながら見たんだがよ、やっぱ最高だった。・・・野蛮?それが良いんじゃねぇか。自分の命を自分に委ねる。そういう世界で、生きてみたかったなぁ・・・っと、悪いな。最期にこんな話して。じゃあ、祈りの言葉。始めてくれ____
返信
返信0
さん (7c8ltcsp)2020/1/16 18:21 (No.50176)削除
【或いはあり得たかもしれない日々】

電脳世界に四季やら季節感を与える事に一体何の意味があるのだろうか?少なくとも自分には不要だった。余程の酔狂でもない限り、極端に寒かったり暑かったりする場所を好む奴など居るわけがない。まぁ、人生の半分を此処で過ごすなら季節感が無ければ面白くないとかいう判断なのだろうが…コートの襟を軽く立て、咥えていたタバコから口を離す。空から悠長に落ちてくる雪は寒さだけでなく孤独感を与える小道具としては出来過ぎていた。ことこの場所においては___
「メサイアだ。アンタに2、3聞きたい事がある」
路地裏に入ってすぐ、ボイド連中がやたら出るようになった区画で未だに住み続けているヤツが居る。その手の連中はデザイアと何かしら関係を持っていないか調べろというのがメサイアの指針だ。『疑わしきは罰する』なんて、エラく後手後手に回ってる気がするが、メサイアあってのこの命の自分にはそれに影で皮肉は言えども面と向かって言うなんて事は出来ない。生殺与奪を握られているというのは、如何にも歯痒いものを感じる。
「…おーい。聞いてんのか?アンタが今日家にいる事はとっくに分かってんだ。マゴマゴして要らねぇ手間掛けさせんな」
ドアを強くノックしても反応無し。なんとなく予想は付いていたが、こうなれば強硬突入しかない
「…忠告はしたからな。後になってドアの修理代請求すんなよ」
肩で数回ぶつかれば壊れそうなドアにタックルをかます。一回、二回…三回目のタックルがドアに当たるその瞬間___ドアが開き、勢いを殺せずに中に転げ込んだ
「___ってぇな!テメェ何か一言位は言ってからだなぁ!…成程…」
通りで何も言わない訳だ。中には5人、分かりやすく怪しげな人相をして手には思い思いの凶器。そろそろ自分達に捜査の手が伸びると分かったが、かと言って場所を変える訳にもいかない理由___恐らくはボイドの定期的な発生状況をデザイアの連中に報告する仕事でもしていたのだろう___があって、『見たヤツ(捜査官)を消す』という古典的な手段に打って出たのだろう…全く…
「…ツイてねぇな、アンタら…」
何というか、居た堪れない気持ちになった。幾らの端金で雇われたのかは知らないが、メサイアの捜査官相手に命を張る程の大金って訳でも無いだろうに…
「…アンタらのやってる行為は捜査への妨害行為及び捜査官への明確な敵対行為だ。それに、そんな物騒なモン持って俺を殺そうって事は…テメェらも地獄へ叩き落とされる覚悟位は決めてたって事だよなぁ?」
そこから先は早かった。というかいつもの鉄火場になった。部屋は狭かったが、振り回さなきゃ威力が出せない向こうと引き金を引くだけで十分な殺傷能力を発揮する武器を持った自分、数で劣ろうが結果は明白だった。数回銃声と断末魔、情けなさ満載の雄叫びが聞こえた後、路地裏はいつもの静寂を取り戻した
「…つってもお前さん方にゃ色々歌ってもらうぜ?ウチには拷問のプロもいる。マゴマゴして脚やら腕持ってかれる前に洗いざらい吐いた方が命と身体は保証されると思うぜ?」
膝に1発、脇腹に1発撃ち込めば戦いの素人達は一瞬にして戦意を失う。こっちとしてもリーダーが分からない状況で下手に殺すと上からお叱りを受ける面倒を被るので全員確り生きているようで胸を撫で下ろした。他の戦闘部隊員に連絡を回し、あとは確保してもらうだけ。待ち時間に一服しようかと近くにあったボロボロのソファに腰掛け、事務部のリーダー___確かラファエルという名前だったか。かなりの綺麗所な上に仕事熱心で事務部内外関係無くファンの多い女性___から差し入れとして貰ったタバコとライターを取り出して___後頭部に衝撃を受けて意識を手放した_______
「…ってぇ…まさかもう一人隠れてたとはなぁ…クソッ!まだ痛みやがる…」
『あのハリーが素人相手に出し抜かれたたぁ面白ぇ!明日は雪でも降んじゃねぇか?』
「おい、テメェこそ盲にでもなったか?雪ならさっきから降ってるっつーの」
『マジか⁉︎通りでバカに冷えると思った…マスター!ウィスキーもう一杯!』
「酒ばっかかっ食らってっから外の様子も分かんねぇだろうが…俺にも一杯くれ」
後頭部に思いっきり角材を喰らい数十分程昏倒していたようだが、連中が逃げ出そうとしてた頃にはとっくにメサイアが駆け付け、俺もその場で保護された。傷を負うのは別に構わないが、不意打ちを食らったのが久しぶり過ぎて何だか無性に腹が立ってしまう。そんな苛立ちと頭の痛みを酒と飲兵衛共との他愛ない会話で紛らわす。安静にしているよりこっちの方が治りが早い気がするが、多分医務班からは本気でキレられても仕方ない。またあの事務部リーダーに頼る事にしてウィスキーを一気に飲み干す。喉を熱く下がっていったかと思えば身体の芯から熱いものが駆け上がり、痛みが薄れていく。こういう無駄に細かい感覚を作れるPoSCの連中の技術には些か癪だが目を見張るばかりだ。そんな他愛もない事を考えていれば、飲兵衛共はいつの間にか店の端で管を巻き始め、カウンターでまともに飲んでいるのは自分一人になっていた。この程度この店では日常茶飯事、マスターも店の娘も慣れたようにあしらっているし、自分もその程度では動じない。だが、今日はどうもおかしな事が立て続けに起こる日らしい。というのも_______
『アタシ、アンタになら抱かれても構わない…』
「あー…悪ぃんだが、誰かと間違えてねぇか?」
精一杯背伸びをしたのであろう、半端な知識だけで作られたチンピラ風の女に側に座られ、こんなストレートな告白を喰らうのだから。爪も塗らず、細かな所作からはどことなく上品な雰囲気が見え隠れする…大方良いトコのお嬢様が何か映画でも見てアウトローな雰囲気に憧れたのだろう。精一杯それっぽい行動を取ろうとしているが気恥ずかしさと憧れに近付けた興奮で言葉すらままならない…呂律が回っていないのは緊張で水のように酒を飲んでいたからでもあるのだろうが、距離が近いとはいえ確り酒の匂いがする。
『アタシ、アンタみたいな強そうな男が堪らなく好きなんだ…だから…』
「ったく、そんだけお望みならご期待に応えてやらねぇとなぁ…?」
酒に酔ってる相手に彼是悪戯する程女に飢えてる訳でも無し。その上今日は色々あって若干荒んだ気分、女を抱くには些か気分が乗らない。信頼出来そうなボーイのいるホテルに叩き込んで酔いでも覚まさせてやろうと適当に切り上げて店を後にする。ホテルまでの道すがら、なんとなく懐かしい気持ちになった。疑問に思ったがその答えは唐突に頭の中に現れた。昔、似たような事があったのだ。
孤児院を追い出されて数年、18になった俺は立派な犯罪者の仲間入りを果たしていた。スリ、万引き、空き巣…小悪党のする大抵の悪事はし尽くし、クスリの密売にも手を染めていた。クスリが高かったお蔭でクスリ漬けにもならず、小袋一つが数十ドルで、出す片端から売れていくのは見ていて気持ちが良かった。卸への支払いをしても有り余る金と多少の値上げ程度では動じないリピーター。クスリは俺達の稼ぎ頭だったが、時折問題の種にもなった。それは売り場と顧客の取り合い。大きな組織であれば話し合いによる線引きを行ったのだろうが、ガキ数人が寄り集まって出来た組織では、普段の鬱憤晴らしや意趣返しも兼ねて顧客や売り場の取り合いが抗争に発展する事は自然な成り行きだった。そんな、殺伐とした楽しい日々の最中、組織を作って以来の大抗争の火種が降って湧いた。というのも当時敵対していたチームの数人が中立地帯(大手組織のシマ)でサツにパクられ、その一報をしたのが俺達のメンバーではないかといちゃもんを付けてきた。その少し前に今と殆ど逆の事が起きていたからその意趣返しをしたのだろうというのが向こうの言い分だった。無論根も葉もない嘘だったが、状況が状況だっただけに一概にそうとも言えなかった。だからチームの中でも武闘派だが比較的ハト派の俺が呼ばれ、向こうと直接話す場を設ける事になった。勿論話し合いは数分でオシャカになり、あとはステゴロ、角材なんでもありのの乱闘騒ぎ。その時に相手の振るった角材が思い切り頭に入り、最後の最後でぶっ倒れるという醜態を晒したのだ…
『ハハハ‼︎凄かったぜ?ウニョーンって伸びてんだもんなぁ!』
「REX、テメェ後で覚えてろ?ぶっ倒れる前にテメェが写真撮ってたの、知ってんだからな」
『でもハリー(俺の名前、ヘンリーの愛称。俺達は大抵互いを愛称で呼んでいた)がぶっ倒れるなんて俺は初めて見たぜ』
『それどころか、角材をモロに食らったって話も初めてだ。珍しい事もあるもんだ』
「っせぇな。向こうからこれ以上因縁付けねぇって言質取れた。それだけで充分だろうが」
そんな他愛もない会話と共に挙げる祝杯はいつも以上に盛り上がり、気付けば男も女も関係なく寝ぐらにしてる昔自動車整備工場だったトコのガレージで雑魚寝していた。生憎頭が痛過ぎて酒どころじゃなかった俺だけが大分シラフのままで、酒も飲む気になれず適当に買ったコーラを飲んでいた。そんな時だった。
『ハリー?寝なくて良いのか?』
心配そうに俺の元に来る女が一人。道路脇で客を引いてるフッカーと余り変わらない程扇情的な格好をしている。
「…なんだキャスか…寝ようにも頭が痛くて眠れやしねぇ。それに、ついさっきまで命のやり取りしてきた後だからな…昂って眠れねぇよ。そういうキャスは寝なくて良いのか?」
名前はキャス、本名をキャサリンという此処から遠く離れた街に住む金持ちの娘だ。家のしがらみやら愛人を囲っている親父、それに対する当て擦りのように若い使用人にちょっかいをかける母親に愛想を尽かし、家を飛び出したじゃじゃ馬娘だ。行き倒れていたのをナンパ師で有名な仲間が引っ張り込んできてそのまま居ついた。始めはお高くとまったお嬢様かとも思ったがあっという間に俺達に馴染み、読み書きが出来ない奴らの手紙の代筆やら何やらをする、チームには無くてはならない存在だ。問題といえば美人過ぎる所だ。俺達のようなチンピラが集う場所では彼女は注目の的で、それが原因で厄介事になったりもしたが、なんだかんだで上手くやっていたのだ。
『アタシはホラ、別にする事もなかったし。少し酒が入ったせいで眠れなくなった』
「そうかい…ってぇな、クソ…」
『確か痛み止めがあったはずだけど、飲む?』
「あぁ…頼む…いや、俺から行くわ。何処だっけか…」
『棚の上から2番目。いつものトコ』
「あーっと?…あったあった…少しは効いてくれよ?」
棚に置いてあった薬のお蔭で多少痛みが引き、近場の椅子に腰掛ける。キャスは俺と向かい合うように腰掛け、何か言いたいのか視線が泳いでいた。
「…何か言いたい事があんなら言ってみろって。親父さん達のトコに帰りたくなったか?それならちゃんとアイツらに別れの言葉位は言ってけよ?」
『…誰があんなトコ帰るか。じゃなくて…な』
「ったく、水臭ぇな。なんでも言ってみろって。俺達家族じゃねぇか。家族の誰かがヤバい事に巻き込まれたんなら総出で出る、俺達のモットーだろ?」
急かされて腹を決めたのか、キャスが口を開いた。
『ハ…ヘンリー』
「んだよ改まって」
『アタシ…さ。アンタの事が好きに…なったみたい…』
「そうかそうか俺の事を好きになったか。まぁ、お嬢様として育てられちまったお前がチンピラに惚れるってのはよく聞く話…俺⁉︎」
思わず声が大きくなる。頭の痛みなど何処かへ飛んでいった。身体の芯が熱い。酒はそんなに飲んでもいないし、そもそも飲んでから時間が経ち過ぎている。
「ちょっ!ちょっと待った!キャス、お前やっぱ酔ってるだろ?!或いは疲れてる!そのあのええと…あー…」
自分でも何を言っているのかが分からない。恥ずかしい過ぎてキャスの顔を直視出来ず、考え込む振りをして顔を背けた。視線の端ではキャスもまた気恥ずかしそうだった
『そういうのじゃない…アタシが拾われた時も、アンタだけは此処に居ていいって言ってくれた。それ以来…その…』
「わーったわーった!全部言うんじゃねぇ木っ恥ずかしい…」
確かに彼女が此処に居る事に最初から最後まで賛成したのは俺だけだった。別に善意からではない。金持ちの娘だと分かって、話に聞くクソ親共に灸を据えてやりながら身代金として高値を吹っ掛ける気で居たからだ。この手の不幸話はどこにでもある。だが、それをキッカケに何かが変わるのか、それが見てみたかっただけだ。彼是説明してもコイツは聞き入れないだろう。自分でも分かる程に顔が熱くなっていた。
『…嫌ならそう言って欲しい。どっちだったとしても気持ちの整理が付くから…』
…あぁ、なんでそういう顔をするんだ。わざと諦めたような表情を作るのでもなく、唇を真一文字に結び、答えを待たれるなんて…
「…俺はお前みてぇに育ちが良い訳じゃねぇ。それに、俺みたいなヤツは探せば居るかも知れねぇぞ?それでも良いんなら…」
抗争前なんて屁でもない緊張の中、俺は絞るように答えを引き出した。心臓が爆発しそうな程脈打ち、口の中が乾く…こんな感覚は初めてで、どう処理して良いのか分からなかった。だが、なんとなくこうしたら良いのかと本能で知覚していた。徐に立ち上がると、キョトンとした表情を見せるキャスを抱き抱える。
「…互いに気持ちを確認したってこたぁ…あともう一つ、する事があんだろ?」
無言の頷きが答えだった。そこからあとはハッキリと覚えていない。ただ、起きた時には他のメンバーが揃いも揃ってにやけヅラを並べていたって事だけは癪に触るが覚えている____
『ねぇ!アタシを抱いてくれるのくれないの‼︎』
「ったく、喧しいな…ホレ、靴。外れてんぞ」
『大丈夫ー。でもありがとー』
「…ハァ…」
ホテルまではあと数m。これだけ声を張り上げてる奴が近くに居たせいか、ドアマンが『ご愁傷様です』とでも言いたげな顔でドアを開けてくれ、フロントに着く
『…なにこれ。すっごい良いホテル…』
酔ってるせいで普段以上に煌びやかに見えてるのだろう。彼方此方見回す女を尻目にフロントに一室取ってもらう。フロントの老紳士は割と見慣れているのだろうか、ボーイに水を持ってくるよう手配をしてくれた
『お二人ですか?』
「いや、あっちの嬢ちゃんだけだ」
『お荷物は…お持ちで無いようですね。クリーニングのサービスもお付けしましょうか?』
「あぁ。悪いがそうしてくれ。あと…」
『ボーイを一人手配しておきます。お目覚めになられましたら此方からご連絡差し上げます』
「助かるよ。いきなり絡まれたモンでな」
『それはご愁傷様で御座いました。ではあとは此方で』
「良いのか?」
『勿論です。私共がこうしてつつがなく営業出来るのも、お客様のような方がいらっしゃるからです』
「…どっかで顔を見た事が?」
『えぇ。この前取材をお受けになった時に』
「…成程な。じゃあ後は任せた」
『お任せください。では、良い夜を…』
フロントの老紳士は恭しく一礼して俺を見送り、新入りのボーイは先輩格のボーイと共に酔っ払い女を部屋に運んでいった。明日になれば自分の醜態などすっかり忘れているだろう。軽く溜息を吐くと白い息が溢れ出た。
「…今夜は随分冷えるようだ…」
帰りに何か温かい物でも買って家で飲み直そうと帰路に着く。あの酔っ払い女と一夜を明かせば、或いは何か面白そうな事でもあっただろうか___
「____やめだやめ。あれとどうすりゃ寝れるってんだ…」
そんな事を考えてもしょうがない。俺には明日も昨日も無い。ただその瞬間瞬間を飛び出す弾のように生きるだけなのだから…
返信
返信0
空気圧さん (7c5ml8ri)2020/1/8 23:18 (No.49523)削除
煙草の吸いかた見つけてきた
返信
返信0
空気圧さん (7c5ml8ri)2020/1/8 00:01 (No.49413)削除
眠る姿は可愛いのにね。
おやすみなさい
返信
返信0
空気圧さん (7c5ml8ri)2020/1/7 18:45 (No.49395)削除
趣味詰合せ
寝惚けラファ
なんでこうなった?
戦友を助けられなかったラファちゃん
『ごめんなさい。』
知らないモブに襲われかけたラファちゃん。
返信
返信0
空気圧さん (7c5ml8ri)2020/1/7 00:44 (No.49359)削除
初晴れ着。
ラファちゃんは少し髪を伸ばしてみたみたい。
明けましておめでとうございます。
返信
返信0
空気圧さん (7c5ml8ri)2020/1/5 08:05 (No.49244)
元気なラファちゃん11歳。
この頃はまだ笑えてたのにね。
『もー、恥ずかしいってばぁ!』
返信
返信0
空気圧さん (7c5ml8ri)2019/12/29 01:56 (No.48707)削除
ごめんなさい…反省はしてるんです…
返信
返信0
空気圧さん (7c5ml8ri)2019/12/29 00:51 (No.48705)削除
私の趣味❤
照れてるハリー君良いよねって…
返信
返信0
空気圧さん (7c5ml8ri)2019/12/25 21:22 (No.48464)削除
メイドラファちゃまだよぉ。
顔が良い…()
「……………(ご主人様❤)」
返信
返信0

Copyright © 電脳偉人戦地ウロボロス, All Rights Reserved.